アベノミクス?クールジャパン?ジブリ?AKB?世界ではこう戦え! 「創造力なき日本」~アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」(村上隆著)
アート業界の第一線で、しかも世界を舞台に活躍し続ける著者によるさまざまな指摘や提言は、個人の力を最大限に発揮する方法論であり、また、芸術以外の仕事に就く多くの者にとっても「道しるべ」となりうる。
理解してもらうためには、ただただ歩み寄る。そうすることに疑問を抱かないのが、絶対的最下層にいる人間の生き方です。
芸術作品は自己満足の世界で作られるものではなく、価値観の違いを乗り越えてでも、相手(顧客)に理解してもらう「客観性」が求められる。このあたりの意識が欠落している人が多いと、厳しく指摘している。これは、なにも日本のアーティスト志向の人たちに限られたことではないし、「まず相手ありき」という姿勢で仕事に臨んでいるか、という観点では、多くの人々に当てはまることではないだろうか。
最初に問われるのは才能などではなく、自覚と覚悟になる。
芸術一筋で他の事は何も目に入らないような弟子のことを例に挙げ、とにかく、なぜか出せば売れる、人に何かを感じさせるものを持っている・・・という具合に、一定の結果を出せる理由として、「続けている」から、と断言している。才能がありながらも去っていく人が後を絶たない中、下手でもやり続けていれば何かしらの結果が出るもの。このあたりは、アートに限らず、学問や他の仕事にも共通する部分だろう。
さらに加えると、この世界で生き残っていけるかどうかを決める要素として、「自覚」「覚悟」に加えて、「人間関係を大切に出来るか」ということを挙げている。やはり、根源的な部分が問われるわけだ。
ご機嫌取りの発想を持たないということはつまり、相手の感情を顧みず、自分の欲望に忠実すぎる人たちが増えているということです。
そんな姿勢では、目の前の仕事に真剣に向かい合っているとは言えない。ご機嫌を取らないということは、社会で生きていくための最低限の適性すらないということだ。・・・これは分かっている人には当たり前の感覚かもしれないが、個人的にはとても的確な指摘だと思う。角が立たない表現にすると「ご機嫌を取るということは、お互いに気持ちよく仕事を出来る関係をつくっていくことを意味する。」ということなるが、角が立つ表現の方が何倍も説得力がある。
また、著者は、世間やクライアントのご機嫌を取るということは、芸術家としては当然のことであり、自分自身が世界の舞台で活躍出来る唯一無二の争点だとしている。そういった意味で、レディー・ガガは自分がヒエラルキーの最下層にいることを理解しているアーティストであると指摘しており、意識して彼女のパフォーマンス、言動、さらには戦略を思い返してみると、なかなか説得力がある。
本書は、読む人の立場や問題意識によって、印象に残るキーワードは異なってくるかもしれないが、「これはアーティストだけでなく、自分にも当てはまる。」と、身近な問題や自分自身を見つめ直すヒントを得られる一冊だ。
創造力なき日本 アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」 (角川oneテーマ21)
- 作者: 村上隆
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/10/10
- メディア: 新書
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