ぴょろりずむ ~本から学ぶ~

読んだ本、読みたい本、読むべき本を紹介していきます。

活字中毒になってみる?ブロガー必読の一冊! 「多読術(松岡正剛著)」

松岡正剛の千夜千冊」というサイトを初めて覗いてみた時に衝撃を受けた。どうやったら1冊の本をここまで深く読み解くことが出来るのか・・・? 一見全く関連性の無い分野の本であっても、彼の中では有機的に結びついており、分野を超え、時代を超え、それらを自由自在に織り交ぜてくる。まさに「知の巨人」である。その膨大な読書量と密度(濃厚さ)、さらには読書で得た知識を「編集」する力の秘密を知りたくて、読んでみたのが本書だ。(正確には、2010年12月に一度読んでいたので、今回は再読になる。) 

 

「知の巨人」は、どんな読書法を参考にしたのか?

本書では、実に数多くのスキルとしての読書法が紹介されているのだが、ここでは著者自身も参考にしたという、兵庫県但馬に「青谿書院」を開いた池田草庵の方法を挙げておきたい。(のちに吉田松陰も真似した読書法だと言われている。)

「掩巻(えんかん)」・・・書物を少し読み進めたら、一旦本を閉じて、その内容を追想し、頭の中ですぐにトレースしていくという方法。

「慎独(しんどく)」・・・読書した内容を独り占めせずに、必ず他人に提供せよ、という方法。(読んだ本をブログで取り上げるのも、この読書法のひとつと言えるだろう。)

  

なぜ読書をするのか?

読書は「わからないから読む」それに尽きます。わからないから読みたい。旅と同じ。「無知から未知へ」の旅。パンドラの箱を開けるべく、その鍵(入れるのが読者)と鍵穴(書物)の関係のプロセスに入ること、と表現されている。

「役に立つ読書とは?」と、つい聞きたくなってしまうが、これは愚問なのだろう。著者によると、それは「役に立つ人生って何か?」と聞くようなものであり、そんなもの、人それぞれだ、ということになる。むしろ、「読書は毒でもある」ということを認めていった方が、かえって読書は面白くなるというのだ。(本は背信もする、裏切りもする、負担を負わせもする、それが読書、だから面白い・・・と。)

 

 読書は「自分の鏡」だという説もありますが・・・?

本書は対談形式になっている。この質問に対して著者は、「もちろん読書は自分を映す鏡です。」と答え、免疫学(ジェンナー)や精神医学(ジャック・ラカン)等に関する書物を用いながら、その鏡像性について解説する。そのうえで、著者の感覚としては、むしろ「水たまり」とか「小さな池」だとする。「そこを覗くと大きな青い空とか、近くの建物とかが映っている。小さな池でも、覗く角度で大空も入るわけです。もっと真上から覗くと、自分の顔が映る。」

こんな具合に一流のアスリートだけが理解出来るような感覚的な表現が、本書の中には散りばめられている。

 

キーブックとは?

「知の巨人」ならではの表現であり、深すぎてよく分からないような気もするが、何となく分かるような気もする。

このキーブックをもとに最大公約数や最小公倍数という束が出来上がっていく。建築家のクリストファー・アレグザンダーは、それを「セミラティス」と呼んだ。分かりやすく言えば、「柔らかい束」あるいは「柔らかい重層構造」ということで、いきいきとした構造は何本もの結節点が相互につながりあっていて、どの方向にも進みうる。いくつものキーブックが結節点になって、柔らかい系統樹を示しているはず。ただ、それはラティス(束)ができてから、あとで気が付くことが多い。そのうち勘ができて、これがキーブックだなと思えるようになる。・・・ということらしい。

(ちなみに松岡正剛流のキーブックとして、ウェブ「千夜千冊」を全集「千夜千冊」(全7巻)に再編成した時の巻立て、章立て毎に数冊ずつ紹介している。ここでは割愛するが、いかにも難解で読み応えのありそうな本が列挙されている。未読のものについては、是非チャレンジしてみたい。)

 

読書する上での基本スタンスは?

読んだ本が「当たり」とは限らない。むしろ『はずれ』の方が多いかもしれない。でも、それが読書の出発であり、何か得するためだけに読もう、というのではダメ。そういうものじゃない。

まさにその通りだと思う。あまり本を読まない人ほど、手に取った本が「当たり」であることを過度に期待する傾向がある。また、自省の念も込めて言えば、何かを得るためだけに行う読書は、後で振り返ってみると浅薄なものであったということも多い。しかし、だから読む意味が無い、というわけでもなく、そういったことを経験することも必要なのだろう。まさに人生と同じである。本書でも冒頭で「多読と少読はつながっていて、本質は同じ」とし、「少読がしだいに多読になるのではなく、多読によって少読がより深まるということもありうるわけで、そこが読書のおもしろいところだ。」と言っている。

 

 最後に

本書は、本を多く読んでいる人にとっては、さらに読書の多様性を知ることにつながり、あまり本を読まない人にとっても、自分にあった読書スタイルを見出すきっかけとなる、そんな一冊である。また、ご覧になったことが無い方には、あわせて著者のウェブサイトである松岡正剛の千夜千冊」も一度覗いてみることをお勧めしたい。

 

多読術 (ちくまプリマー新書)

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